高齢者に必要なタンパク質の摂取量 高タンパク食のメリットとリスクを解説

高齢者の食事

高齢者に必要なタンパク質の量

高タンパク食のメリットとリスクを解説

こんにちは KBです。老人ホームで理学療法士として働いています。

本日、下記のツイートをしました。

 

近年、日本ではタンパク質や筋トレの重要性が見直されており、2018年には「筋肉は裏切らない」が流行語大賞候補にノミネートされました。

タンパク質を主成分としたサプリメントであるプロテインの市場は拡大しており、50歳〜69歳、70歳以上の高齢者の間でも愛飲する方が増えています

本記事では高齢者に必要なタンパク質の量と、高タンパク食のメリット、リスクを解説します。

この記事の特徴

高齢者に必要なタンパク質の量を紹介

公的機関、大学等の研究結果が情報源

極力、専門用語を少なめにして誰にでもわかりやすいように説明

高齢者に必要なタンパク質の量

結論から書きます。

シニア世代(50歳〜69歳)、70歳以上の高齢者共にタンパク質の推奨量は

男性:60g/日  女性:50g/日

とされています。(1 厚生労働省HP 日本人の食事摂取基準 2015 年版 の概要)

これは各年代の平均体重(kg)×1.06(g)から算出し、目安として発表されています。

そのため、この推奨量ではなく、ご自身の体重(kg)×1.06(g)で算出してみても良いかもしれません。

仮に体重が重い高齢者だと、

体重75kgの高齢者の場合、 
75(kg)×1.06(g)=79.5g/日

やせている高齢者だと

体重40kgの高齢者の場合、
40(kg)×1.06(g)=42.4g/日

結論、男性60g/女性50gを目安にタンパク質を摂り、

体重が50〜60kgから逸脱する方は体重(kg)×1.06(g/日)で算出することをお勧めします。

高齢者はタンパク質の消化、吸収が悪い?

高齢者はタンパク質の消化、吸収能力が落ちている為タンパク質を多く摂っても効果が少ないと思われる方もいるのではないでしょうか。

Pennings B, Koopman Rの研究(2)によると

若年者と比べても高齢者は、タンパク質の消化と吸収能力は低下しないと報告されています。

しかし、高齢者がタンパク質を多量に摂っても、若年者と比べ筋力向上、筋肥大しにくいのは事実のようです。

理由は、

・タンパク質の同化作用が起こりにくいこと

・タンパク質の異化が同化を上回ってしまうこと

と考えられています。

ざっくり説明!
タンパク質同化作用:体の中でアミノ酸からタンパク質を作る作用。つまり筋肉を作る作用
タンパク質異化作用:タンパク質を分解してアミノ酸を作る作用。つまり筋肉が減少する作用
人間はこの同化-異化を絶え間なく繰り返しています。
筋肉を作るよりも、筋肉が減る作用の方が強くなりやすいという事ですね。
そして、同化作用が低下している高齢者では、一食20gのタンパク質の摂取では血中のアミノ酸が同化の閾値に達する事ができない為、
一食25g〜30gのタンパク質の摂取が推奨されています。

高齢者の高タンパク食が筋肉の減少を抑制する

「高タンパク食は高齢者の筋肉の減少を抑制する」と考えられています。

高齢者の高タンパク食が筋肉の減少を抑制したと報告した研究は複数あります。ここでは2つ紹介します。

Denise K 、Barbara J (ピッツバーグ、メンフィス)らの研究(3)によると

地域在住の70歳以上の高齢者を3年間観察したところ、

タンパク質摂取量が最も多い群(平均91g/日 1.2 g/kg体重/日)では最も低い群(平均56g/日 0.8 g/kg 体重/日)と比較して、除脂肪体重の減少が40%にとどまっていました。

ざっくり説明!
除脂肪体重:全体重から脂肪の重さを引いた重量のこと
筋肉、骨、血液、内臓の重さですが、一般的に筋肉の量の目安となります。

タンパク質を多く摂っている人たちが、筋肉量の現象が少なかったことを示しています。

これはアメリカでの研究でした。日本の高齢者を対象にした研究も紹介します。

児林、朝倉らの研究(4)によると

日本人の高齢女性では、タンパク質摂取量が多い群では虚弱者の割合が低く、特に70g/日以上摂取している群でその効果が顕著だったという結果が報告されています。

アメリカの高齢者のように、1日に90gの高タンパクを摂取しよう!とまでは言わないものの、

70g/日程度は目標にしても良さそうですね。

過剰な高タンパク食が腎機能障害のリスクを高める

どちらもアメリカの研究ですが、
高タンパク質が腎機能障害の悪化やリスクを高める可能性を示唆しています。
軽度の腎機能障害をもつ女性では、1.3 g/kg 体重/日以上の中~高タンパク食の生活を11年間続けたところ、腎機能が悪化してしまったという報告(5)があります。

さらに、

健康な高齢者でも、2.0 g/kg 体重/日の高タンパク食により、腎障害のリスクが上昇すると報告されています。(6)

ざっくり説明!
腎臓:腰の上の背中側に2つずつある臓器。体の中の老廃物を濾過して排出します。
腎障害の患者はこの能力が低下している為、タンパク質が代謝された時に出る老廃物を濾過する時に負担がかかってしまうのです。

高齢者では、体重(kg)×2(g/日)以上の高タンパク食は避けた方が良さそうです。

※慢性腎不全など、腎機能障害の既往がある方は、必ず医療機関で指導されている栄養管理を守ってください

高齢者のタンパク質摂取の考え方

「高齢者はタンパク質の消化、吸収が悪い?」にて、

同化作用が低下している高齢者では、一食20gのタンパク質の摂取では血中のアミノ酸が同化の閾値に達する事ができない為、
一食25g〜30gのタンパク質の摂取が推奨されています。
と書きました。
ここで注意が必要なのは、体重が軽い方のタンパク質摂取量です。高齢の女性では体重が50kgを下回っていることは珍しくありませんよね。
では、低体重の高齢者も一食で25〜30gのタンパク質を摂るべきなのでしょうか?
例 体重40kgの高齢者
一食25gのタンパク質を摂取した場合、

25g×3食=75gの総摂取量

これは1.87g/kg 体重/日のタンパク質摂取量に相当する
上述したとおり、健康な高齢者でも2.0 g/kg 体重/日の高タンパク食により、腎障害のリスクが上昇すると報告されています。
1.87g/kg 体重/日のタンパク質摂取量はこれに迫る値であり、腎機能への影響は否定できません。
考え方として、体重が50kg〜60kgから逸脱する人は、
体重に応じたタンパク質摂取量の設定を第1優先とするのをオススメします。
ご自身の体重(kg)×1.06(g)で算出したタンパク質量が安全と考えられそうですね。
「1日70g以上の高タンパク質が良いらしいわね。一度に25g以上摂るのね。じゃあ30gを三食で1日90g摂ろう」
「私の体重が43kgだから、43(kg)×1.06(g)で、46g/日ね。じゃあ一食14gで分けて食べようかしら

まとめ

以上の内容をまとめます。
  • 1日のタンパク質の摂取量は男性60g、女性50gが目安。
  • ただしこれは平均的な体重の高齢者であり、それから逸脱する方は1.06g/kg 体重/日で算出した値が目安
  • 目安以上にタンパク質を摂取した場合、筋肉の減少を抑制できる可能性が高い
  • 高齢者は筋肉を作る作用よりも筋肉を分解する作用が強くなりやすい為、1食25〜30gのタンパク質を摂取するのが望ましい
  • 過剰な高タンパク食は腎臓病のリスクを高める
  • 腎機能障害のある方は必ず医療機関の食事指導に従うこと
  • 体重(kg)×2(g/日)以上のタンパク質摂取は控える
高齢者のタンパク質量の設定はとても難しいです。
筋肉を作る為には、多くのタンパク質量が必要である反面、腎障害のリスクを考えないといけないというジレンマがある為、慎重になる必要があります。
しっかり自身の既往歴を確認し、リスクを避けながら健康なタンパク食を心がけましょう!

参考文献

(2)Pennings B, Koopman R, Beelen M, et al. Exercising before protein intake allows for greater use of dietary protein-derived amino acids for de novo muscle protein synthesis in both young and elderly men. Am J Clin Nutr 2011; 93: 322─31

(3)Houston DK, Nicklas BJ, Ding J, et al. Health ABC Study. Dietary protein intake is associated with lean mass change in older, community-dwelling adults : the Health, Aging, and Body Composition (Health ABC) Study. Am J Clin Nutr 2008; 87 : 150─5.

(4)Kobayashi S, Asakura K, Suga H, et al. High protein intake is associated with low prevalence of frailty among old Japanese women: a multicenter cross-sectional study. Nutr J 2013; 12: 164

(5)Knight EL, Stampfer MJ, Hankinson SE, et al. The impact of protein intake on renal function decline in women with normal renal function or mild renal insufficiency. Ann Intern Med 2003 ; 138: 460─7

(6)Walrand S, Short KR, Bigelow ML, et al. Functional impact of high protein intake on healthy elderly people. Am J Physiol Endocrinol Metab 2008 ; 295: E921─8.

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