
こんにちは ケービーです!老人ホームで理学療法士のお仕事をしています
高齢者の筋トレの有効性は高いとされており、フィットネスクラブに入会する方や、プロテインを日常的に飲む方は増加傾向にあります。
経済産業省の調査(1)によると、フィットネスクラブの会員の30%以上が60歳以上らしいです。
通う理由は様々で、体力増強、生活習慣病の予防、気分転換、そして筋肉の増強(筋肥大)…
若年者は筋トレをすることで結果、筋肥大が得られますが、高齢者の場合はどうなのでしょうか?
今回は高齢者の筋肥大について一緒に勉強していきましょう!
※トレーニングプログラムだけ知りたい方は、目次の「まとめ」をクリックしてください
高齢者でも筋肥大できる
結論から言うと、高齢者も筋肥大が可能です。
(2)Charette、McEvoyによると、27名の高齢者(平均年齢69歳)に12週間の下肢筋力トレーニングを行ったところ、 トレーニングをした群で大腿四頭筋の外側広筋の増大が見られました。
後述しますが、この例以外にも高齢者の筋肥大が見られた報告は多くあります。
そもそも筋肥大とは
筋肥大とは、筋肉(筋繊維)がストレスを受けることで太くなる作用です。筋肉が繰り返しの負荷をかけられることで、ストレスに適応しようと太くなります。
仕組みをざっくりと説明すると、
ベンチプレスを50kgを限界まで行った時、10回上がったとします。限界まで使った筋肉は重量というストレスを受けます。次回、筋肉は同じ負荷を受けたときに負けないようにより太くなり強い力を付けようとします。
これが筋肥大です。
ぶっちゃけ、若者だと食べて筋トレすれば筋肥大します。ですが高齢者ではそうはいきません。
様々な壁が高齢者の筋肥大を妨げます。
障害①タンパク質が筋肉に変わりにくい
1つ目の壁は、高齢者の身体は、「タンパク質が筋肉に変わりにくい」問題です。
高齢者が若者と同じ量のタンパク質を食べても筋肥大しにくそうなのは想像に難くありません。
実は、若年者と比べても高齢者は、タンパク質の消化・吸収能力は低下しないと報告されています。(3)
しかし、高齢者がタンパク質を多く摂っても、若年者と比べ筋力向上、筋肥大しにくいのは事実のようです。
理由は、
・タンパク質の同化作用が起こりにくいこと
・タンパク質の異化が同化を上回ってしまうこと
と考えられています。
タンパク質同化作用:体の中でアミノ酸からタンパク質を作る作用。つまり筋肉を作る作用
タンパク質異化作用:タンパク質を分解してアミノ酸を作る作用。つまり筋肉が減少する作用
人間はこの同化-異化を絶え間なく繰り返しています。

障害②多様な既往歴を持つ
2つ目の壁は、「高齢者は多様な既往歴を持つ」ことです。
色んな病気を持ってる可能性があると言い換えても良いでしょう。
脳卒中により麻痺が残っている…関節リウマチで重いものが握れない…手根管症候群で手首を動かすと痛みが走る…
高齢者は様々な既往歴を持ち、筋トレをするどころかダンベルやゴムバンドを握るだけでも苦痛という人も多くいます。高血圧により、高負荷の筋トレができないことも多くあります。
「筋肥大を起こせるほどの高負荷トレーニングができない」このことも、高齢者が筋肥大しにくい原因の一つです。
これに関しては、指導するトレーナー及びセラピストの知識、技術が物を言うところかもしれませんね。
障害③心肺機能の低下
3つめの壁。「心肺機能の低下」です。
高齢者の身体と 疾病の特徴−日本医師会(3)によると、呼吸筋(横隔膜、肋間筋など)は老化とともに筋力が低下し、十分な喚起運動ができなくなります。さらに、血中の赤血球が低下することで十分に細胞に酸素が届きにくくなります。
筋肥大の為の筋トレは、基本的には無酸素運動です。心肺機能が低下している方の無酸素運動は、心臓への負担が強く残ります。
その為、多くのトレーナーは高齢者に軽い重量での高回数のトレーニングを勧めます。
低重量高回数のトレーニングは有酸素運動です。心臓、肺に優しく筋持久力の向上が期待されますが、筋肥大の期待はできそうにありませんね。
それでも、高齢者の筋肥大はできる!
高齢者が筋肥大しにくい、3つの壁を紹介しました。
他にも、
高齢者の筋トレに詳しいトレーナーが少ないこと
体の変化の乏しさから筋トレへのモチベーションが保ちにくいこと
そもそも多くの高齢者の筋トレが筋肥大を目指したプログラムではないこと…
他にも壁は多くありそうです。
ですが、高齢者も筋肥大ができることは確かなことです。
高齢者の筋肥大の為のトレーニングプログラム
いよいよ、高齢者のトレーニングプログラムを勉強していきましょう!
一般的な筋肥大のトレーニングプログラム
一般的な高齢者の筋肥大のトレーニングプログラム(5)は、
最大挙上重量(1RM)の60%〜80%を挙上重量に設定し
8〜12回を1セット
1〜3分の休憩を挟み
1〜3セットのトレーニングを
週2回〜3回行うこと
としています。
ただしこれは、若年者の研究結果を基にしたトレーニングプログラムで、高齢者を対象とした研究から作られたものではありません。
RMとは? Repetition(レペティション)maximum(マキシマム)の略で、 ある重量が最大何回反復できるかを表す言葉です。 つまり、 ベンチプレス100kgを1回挙上するのが限界の場合は、100kgが1RM。 アームカール10kgを5回挙上するのが限界の場合は10kgが5RMと表現します。 1RMの60%を10回とは、1回挙上できる重量の60%で10回挙上することを指します。 例えばレッグプレスが50kgを1回挙げるのが限界なら、30kgで10回挙上します。
まずは自覚的運動強度を考える
重量の設定の前に、対象が行う運動の自覚的な運動強度を考えます。いくら設定した重量が適切でも、本人の心肺機能、精神的負担が大きければ継続できません。
ACSM(アメリカスポーツ医学会)によると、「高齢者のレジスタンストレーニングは反復回数が10回〜15回に達するときにRPE(自覚的運動強度)が『きつい』から『かなりきつい』を自覚する程度の自覚的運動強度が好ましい」
と指針付けています。
自覚的運動強度とは? トレーニングの自覚的な強度を数値化したもの。Borg Scaleが有名であり、数値を10倍すると ほぼ心拍数になるように工夫されている。 19 非常にきつい 17 かなりきつい ←高齢者の筋トレに好ましい強度 15 きつい ←高齢者の筋トレに好ましい強度 13 ややきつい 11 楽である 9 かなり楽である 7 非常に楽である
※高齢者は虚弱な人、循環器疾患など個人差が強いためこれらはあくまで目安としてください。
負荷と頻度を考える
Hunterらによると、女性の高齢者を対象としたレジスタンストレーニングの研究で、80%1RMで週3回のセッションを行った群と、1週間のうち50%1RM、65%1RM、80%1RMで重量を変えながらセッションを行った群では、筋肉量の変化に差はなかったとのこと。
この研究から、Hunterらは高齢者では40%〜80%1RMの幅の重量の差は結果に影響を与えないと結論付けました。
これには疑問が残りそうです。20kgでレッグプレスをするのと、40kgでレッグプレスするのとで、結果は変わらないのでしょうか?
多くのデータを基に、考えてみたいと思います。
筋肥大の変化を報告している論文を集めました。
このサイトは論文ではないので、データからわかることをざっくりまとめます。
- 1RM30%程度の低負荷では少量の筋断面積の増加しかみられなかった
- 自体重でのトレーニングでは筋断面積は増えない
- 1RM80%(週2~3回)の研究では平均8.8%の増加がみられた
- 1週目は1RM40%、2週目は1RM50%、3週目〜10週目まで1RM60%(Nogueriaらの)と週を追うごとに重量を増やした研究では、この論文群の中では最も筋断面積の増加がみられた。
Nogueriaらの研究は平均年齢66.7歳と比較的若い高齢者が対象ではありますが、同年代で行った1RM30~50%の研究と比較しても増加した筋断面積が倍以上違いますね。
これらの結果から考えると、
高齢者では自体重トレーニング、1RM30%の低負荷トレーニングによる筋肥大は期待できず、
1RM60〜80%の重量で、8~10回を1セットとし、週2、3回行う
ことをお勧めします。ただ、Hunterによると、1RM80%ほどの高重量でトレーニングすることで疲労の回復が遅れ、効率の良いトレーニングプログラムが行えない可能性があると示唆しました。
怪我の予防の観点から見ても、1RM80%の高重量は避け、1RM60%前後の中重量で中回数(8~10回)を行うのがいいと思われます。
まとめ
高齢者の筋肥大の為のトレーニングプログラム
重量:1RM60%〜80%(ただし1RM80%の高重量は疲労感が残りやすく怪我もしやすい)
セットと回数:8〜10回を3セット
頻度:週2〜3回
内容:マシントレーニングやフリーウェイトなどのウェイトトレーニング
主観的運動強度:きつい〜かなりきつい
※既往歴に気をつけ、血圧や脈拍数を見ながら安全にトレーニングを行ってください。
参考文献
(1)経済産業省の調査
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/bunseki/pdf/h26/h4a1502j1.pdf
(2)Muscle hypertrophy response to resistance training in older women.Charette SL, McEvoy L,J Appl Physiol 1991 May;70(5):1912-6.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/1864770
(3)日本医師会HP
https://www.tokyo.med.or.jp/docs/chiiki_care_guidebook/035_072_chapter02.pdf
コメント