フレイルとは?介護予防に欠かせない概念

高齢者の身体

こんにちは。ケービーです。老人ホームで理学療法士のお仕事をしています。

僕が働く老人ホームは、介護付き有料老人ホームと呼ばれる種類の施設です。
介護サービスを必要としない高齢者も、介護が必要な方も同様に入居することが可能で、
日常生活に介護が必要になった入居者様は、介護保険の認定を受けた上で施設内の介護サービスを
利用することができます。

つまり、入居者の身体機能、社会性に大きなバリエーションがあり
「昨年まで自ら創立した会社で会長を勤めていて、退職してのどかな生活がしたいと思い入居した方」から、
「数年の在宅介護を受けたのち、家族の介護が困難になり入居の運びとなった方」まで、様々です。

1日を車椅子上で生活する人から、車椅子を押す人まで様々

人は、必ず老いを経ます。この記事を書いている僕も、この記事を読んでいるあなたも。
自立した生活を送っていた入居者様も、徐々に身体機能が低下し、1人ではできないことが増えていきます。

その過程で、フレイルという状態になる高齢者は珍しくありません。
フレイルは、介護・介護予防における重要なキーワードです。
少々、難しい話になるかもしれませんが、可能な限りカンタンに説明しますので、僕と勉強していきましょう。

フレイルとは?

日本老年医学会(1)によると、フレイルとは

「加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態」

とフレイルの概念を説明しています。やっぱり難しい言葉が出てきました。もう少し噛み砕きますと、

「加齢によって身体のあらゆる機能が低下することで、病気や怪我、外界の変化などの健康に悪影響を及ぼすことに対してひどく脆くなった状態」少しわかりやすくなったでしょうか。

フレイルは、英語のFrailty(フレイルティ)という言葉が語源になっており、日本語でいうと「虚弱」「老衰」という意味です。
「老衰」というと、老いて身体機能が落ち、もう二度と以前のような健康状態には戻れないようなニュアンスを感じますが、フレイルは適切な介入をすることで、身体機能の維持、向上によってもとの健康状態を取り戻せる可能性があります。

「加齢による身体機能の低下ではあるけど、可逆性である」ということですね。この認識はとても重要です。

フレイルは、単なる身体機能の低下ではない

「加齢に伴う様々な機能変化や予備能力低下によって健康障害に対する脆弱性が増加した状態」

と定義づけられているフレイルですが、ここで言う様々な機能変化、予備能力とは身体機能だけを指すのでしょうか。答えは、NO.

フレイルは、精神機能、認知機能及び、社会性の低下も含めた様々な機能の低下も含みます。

身体機能、認知、精神機能の低下は高齢者を閉じこもりがちにさせ、社会性を大きく損ないます。
閉じこもりがちになると、さらなる身体機能、認知精神機能の低下を招きます。このような悪いサイクル
そのものも、フレイルの一部なのですね。

フレイルになった高齢者、どうなる?

フレイルになると、様々な健康被害に脆弱になります。

  • 下肢筋力やバランス能力の低下により、転倒しやすくなる
  • 風邪、肺炎を始めとした感染症に罹りやすくなる
  • 運動の不足により、代謝機能の低下が起きる(生活習慣病に罹患しやすくなる)
  • 抑うつ、不安などの気分障害により他人とのコミュニケーションに難が生じる
  • 閉じこもりがちになり、より上記の状態が悪化する

このような悪いサイクルによりQOL(生活の質)が低下していく中で、フレイルの対処ができなかった高齢者は、「寝たきり」状態になることも珍しくありません。

・・・

ある女性の話をします。
夫に先立たれ、ひとり暮らしをしているAさん(85歳)はかつて、近所でも有名な「元気なおばあちゃん」のイメージで通っているような方でした。

1年前からAさんは10年来の腰痛が強くなってきていて、家事をしていると腰が痛くなるようになりました。「そろそろ大人しくする時期なのかもしれない」と思い少しずつ、Aさんの活動は狭まっていきました。
地域主催の健康教室も休みがちになり、日課であった散歩をしているAさんの姿は、見られることは少なくなっていきました。

1年後、Aさんは老人ホームに入居することになりました。キーパーソンである長男によると、Aさんは1日中家にこもっていることがほとんどで、家事を自分でできる能力はあるのだけど、どうにも気力がなくて何日も溜めてしまうのだとか。食事もデリバリーフードの配達を1食分頼んで、それを3食に分けて食べるそうです。
長男が買い物、家事を週1回手伝いに行くのですが、Aさんはほとんどの時間を無為に、ベッドの上で過ごしているそうです。長男の頭に、「寝たきり」の4文字がよぎりました。まだまだ働き盛りの彼は、Aさんと相談し、介護付き有料老人ホームで過ごしてもらうことを決めました…

Aさんはその後、老人ホームのサービスの一つであるリハビリで、心身ともに活気を取り戻していきました。
まずは、寝ている時間を減らし、洗濯物を畳む程度の簡単な家事から、着手しています。
以前のような元気な姿を取り戻せるように、少しずつ前に進み始めました。

・・・

念のために、この話はフィクションです。
Aさんの1年間の変化、これはフレイルと呼んで差し支えはありません。赤の下線部分は、加齢による身体機能の低下により活動性が落ち、結果的に社会との関わりが絶え、閉じこもりになった実例を表します。

Aさんがそのまま、自宅で無為な生活をしていたら誰にでも寿命は長くないとわかると思います。
フレイルのサイクルにより寝たきり、閉じこもりは健康寿命に大きな影響があるのですね。

それでも、フレイルを脱することはできる

繰り返しますが、フレイルは不可逆的なものではなく、適切な対策をすれば能力の維持、向上が期待できます。僕がリハビリで関わる方の中には、確かにAさんのように能力が向上する人がいらっしゃいます。

周りの専門家の支援を受けながら、少しずつ活動を取り戻せることを覚えてから、このページを閉じて頂けると幸いです。

フレイルの対策などについて、引き続き記事を書いていこうと思います。是非、お付き合いください。

参考文献

https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_51_6_497.pdf

コメント

  1. […] […]

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